2016年10月7日に放送されたNHK「きょうの健康」にて
慢性腰痛はなぜ起きる?慢性腰痛になった時の対処方法について解説していました
45歳の女性Aさんの腰痛エピソード
Aさんは今年度から管理職となりこれまで以上にやる気になって仕事に励んでいました
ところが間もなく腰痛を感じるようになりました。
初めて腰痛になった事もあり煩わしくて仕事に集中する事ができなくなってしまいました
半年たっても痛みが治まらないためAさんは整形外科を受診する事にしました
ところがMRIによる画像検査の結果腰には何の異常もないというのです。内臓などほかの場所にも異常は見つかりませんでした
Aさんの腰痛は慢性腰痛というタイプで腰には異常はないのに、なぜか腰痛が続くというものでこうしたケースとても多いそうです
原因不明の慢性腰痛とはどのようなものなのか?どう対処すればいいのかを詳しく解説します
今回番組で慢性腰痛について解説してくれるのは福島県立医科大学教授の紺野愼一先生です
整形外科医で特に腰痛の診断と治療が専門とのことでした
まずは慢性腰痛についての基礎を紺野医師が解説します
・慢性腰痛というのはそもそもどんな病気なんでしょうか?
紺野医師「3か月以上続く腰痛を慢性腰痛といいます
痛みがずっと続く場合もあるいはよくなったり悪くなったりを繰り返す場合も慢性腰痛に含みます
痛みの程度はさまざまなんですけれども激痛を訴える患者さんも少なくありません
慢性腰痛の中には慢性すい炎や潰瘍性大腸炎などの重い内臓の病気ですとか、あるいは化のう性脊椎炎それから圧迫骨折
そしてがんの転移などの重篤な脊椎の障害がある場合もある訳ですね
ですからまず一度は整形外科などを受診してそれらの病気を除外する事が大事です」
・患者の数はどのぐらいいるんでしょうか?
紺野医師「2010年に4万人以上20歳以上を対象に大規模なアンケート調査が行われております
その結果、国内の慢性腰痛の患者さんは推計で約1,500万人いる事が分かっています
腰痛全体でおよそ3,000万人いますので腰痛を起こしてる人の半分は慢性腰痛で悩んでいるという事が言えます。」
・その慢性腰痛を起こしやすい人というのは何か特徴があるんですか?
紺野医師「はい、特に30歳から50歳代の働き盛りに多いという事が分かっています
で、都会の事務職に多いという事も明らかになっています。
その理由としては恐らくストレスなどを抱えているためと考えられています」
・冒頭でご紹介しましたAさんですが検査をしても腰には何の異常も見つからなかったという事ですね
これは慢性腰痛の特徴といえるんでしょうか?
紺野医師「はい。大きく分けて2つのケースがあります
1つはEさんのように腰には異常が見られないのに腰痛が続くケースですね
もう一つは腰の異常により腰痛が始まってそのあと異常が治ったのに腰痛が続くケースです
これは例えば椎間板ヘルニアでヘルニアが自然に消える、あるいは手術で取ったあとでも腰痛が続いたりする事が当てはまります」
慢性腰痛は重病の可能性もあるというのは驚きでした、たかが腰痛だと油断はできませんね
慢性腰痛は原因不明のように思えますが実はその仕組みはかなり解明されていると番組では次のように紹介していました
【腰痛などの痛みを緩和する私たちの体の仕組み】
私たちの脳には腰痛などの痛みを和らげる仕組みがあります
腰から痛みの信号が脳に伝わると脳からドパミンが放出されます。すると脳内でμオピオイドが大量に放出されます
μオピオイドが増えるとセロトニンやノルアドレナリンが放出され、その結果痛みの信号を脳に伝える経路が遮断されます
この仕組みがあるため腰痛に限らず痛みが気にならなくなったり我慢できたりするんです
ところがこの仕組みを働かないようにしてしまうのがストレスやうつ不安などの精神的要因です
こうした精神的要因を長い間感じていると脳が影響を受けてドパミンが放出されにくくなります
すると痛みを和らげる仕組みが働きにくくなるため腰痛が長引いたり、僅かな腰痛でも強く感じたりしてしまうんです
脳には痛みを和らげてくれるそういう仕組みがあるのも驚きですが、精神的要因によって脳の働きを奪ってしまうというのも驚愕です
紺野医師は精神的要因と腰痛の関係性について次のように解説しました
紺野医師「やっかいなのはストレスなどと痛みがセットになりますと悪循環につながるという事ですね
またよくある悪循環が慢性腰痛という診断を受けずに治療を続けているケースです
精神的な要因をはっきりさせずに一般的な治療を繰り返し、効果が出ないという・・・そうすると患者さんの治療への不満が増しストレス・うつ・不満が増えると
こういう悪循環が起きます」
ストレスは万病の元と言いますが本当にその通りですね
続いて番組では自分の腰痛がストレスやうつ、不安が関係できるか銅貨を確認できるチェック項目を紹介しました
【その腰痛は精神的要因かも?】
腰痛が長引く場合ストレスやうつ不安が関係しているかどうか判断できる精神的要因度チェックを番組では紹介しました
いいえ=1点 時々=2点 ほとんどいつも=3点をそれぞれ足していってください
① 泣きたくなったり泣いたりすることがある
② いつもみじめで気持ちが浮かない
③ いつも緊張してイライラしている
④ ちょっとしたことがしゃくに触って腹が立つ
⑤ なんとなく疲れる
⑥ 痛み以外の理由で寝つきが悪い
続いて⑦~⑩の項目は
いいえ=3点 時々=2点 はい、ほとんどいつも=1点を足していってください
⑦ 食欲は普通
⑧ 1日の中では朝方が1番気分が良い
⑨ いつもとかわりなく仕事がやれる
⑩ 睡眠に満足できる
チェックは以上です。合計点は最少で10点最多で30点となります
・このチェックの合計が何点になると精神的要因が腰痛に関係していると考えた方がいいんですか?
紺野医師「15点以上なんですが、これだけで実際判断している訳ではなくて医師用と患者用の両方の点数で総合的に判断するようにしています
でも、もし15点以上あって、なおかつ腰痛があるという方は一度整形外科を受診して頂ければありがたいと思います
あくまで長引く腰痛がある人のチェック表ですので腰痛がない人は15点以上あっても気にする必要はありません」
・受診して慢性腰痛と診断された場合はどうなるんでしょうか?
紺野医師「慢性腰痛に対する治療。主にストレスやうつ不安に対する治療を行います」
続いて治療方法についての解説をします
慢性腰痛と診断されたときの治療方法
慢性腰痛と診断された場合治療の基本は2つ。1つは悪循環となる考え方の見直しです
そしてもう1つが適度な運動や自分が楽しいと感じる事を行う事です。
こうした方法で十分な改善が見られない場合脳に作用する薬や痛み止めの薬を使う事があるそうです
・この1つ目の「考え方の見直し」これが治療につながるんですか?
紺野医師「このベースとなる治療法の一つがリエゾン療法といって国内のごく一部の医療機関では整形外科医と精神科医が共同で行っております
これは世界的に科学的根拠の認められた治療法で海外では実際に慢性腰痛の患者さんがリエゾン療法でよくなるケースも少なくありません
リエゾンっていうのは連携って意味なんですね」
・国内ではそういう連携して整形外科医と精神科医が連携して行っているような治療っていうのは一部の医療機関でしか行ってないんですよね?
紺野医師「確かに慢性腰痛で悩んでる人がリエゾン療法を受けるというのは現時点では現実的ではないと言えます
そこでその基本的な考え方を取り入れて頂くと患者さんが自分で慢性腰痛を改善させる事が十分可能ですので、いくつかの考え方を並べましたので、もしふに落ちるのがあったら試してみて頂きたいと思います
まず全か無かではなくてほどほどでOKという事ですね
腰痛があるために全然仕事にならないといった考え方ではなくて、腰痛あるけどこれだけ仕事ができたと考えてみるといいと思います
それから痛みの事ばかり考えない事ですね
痛みの事や痛みをとる事ばかり考えますと当然ストレスになります
それよりも例えば体を動かす事に集中したり楽しい事に集中したりする時間を作って頂きたいと思います
次は実現可能な近い目標を作るという事ですね
家事ができなくなって困ったなら家事ができるようになったからよくなったと考えて下さい
もし10分しか散歩できないようであれば30分散歩できるようになったらよくなったというふうに考えて頂きたいと思います
痛みをゼロにする事より出来るようになった=改善と閑雅るとストレスなどのの悪循環を断ち切りやすくなります」
・続いては適度な運動。そして楽しいと感じる事を行う。これもストレスなどを軽減してくれるんですね?
紺野医師「それもありますがはっきりした脳に対する効果があります
ウォーキングなどの適度な運動や楽しい事をしますと脳からドパミンが放出されます
つまりこの2つを行う事で脳の痛みを抑える働きを活発にし腰痛を軽減する事が可能になります
ただ大事なのは日常的に継続して行う事です」
・実際にその患者さんの症状が改善したという例はどんなケースがありますか?
紺野医師「ある患者さんの場合、以前に犬を飼っていたという事なので新たに犬を飼う事を勧めたんですね
そうすると毎日犬と一緒に散歩するようになって犬に癒やされるようになって慢性腰痛がよくなったというケースがあります
またある専業主婦の患者さんはいろいろ話を聞きますと、実は長年仕事をしたいとずっと思い続けていた事が分かったんですね
そこでご主人と話し合ってもらった結果仕事を始めて頂きました
そしたら慢性腰痛がよくなったという方もいらっしゃいます」
・自分にとってやりたい事楽しい事をするようになったら本当によくなっていったという事なんですね
紺野医師「そうです。多くの場合そういった何らかの解決策があると思っています」
続いて慢性腰痛に効果がある「脳に作用する薬」「痛み止めの薬」について紺野医師は解説します
紺野医師「以前から慢性腰痛に対する第一選択薬として最も使われているのが痛み止めである非ステロイド性消炎鎮痛薬です
ほかにアセトアミノフェン、オピオイド、プレガバリンなどを使う場合があります
今年の3月に新たにデュロキセチンという薬が保険適用になりました。
デュロキセチンはセロトニンとノルアドレナリンの放出を増やして脳の痛みを和らげる仕組みを活発に働かせる作用があります
この薬は抗うつ薬としても使われる薬ですが、抗うつ薬としては副作用が少ないというメリットもあります
これはデュロキセチンの患者さんへの効果を調べた研究結果を示しています
デュロキセチンとプラセボ薬それぞれ200人以上の患者さんに14週間薬をのみ続けてもらいました
患者さんが感じる痛みの程度の変化量を観察しますと、いずれのグループも軽減を続けていますがデュロキセチンのグループの方がより明らかな痛みの軽減が見られました」
最後に慢性腰痛で悩んでいる方に紺野医師がアドバイスをします
紺野医師「痛みに対する考え方の見直し。それから適度な運動や楽しい事を継続する事ですね
それから適切なお薬を使うと
この3つを行うと多くの場合腰痛が軽減してくる事が期待できます」
3ヶ月以上も自分でもよくわからない腰痛、慢性腰痛になったと思ったらすぐに医師に相談し治療していきましょう
精神的要因の場合は明るく前向きに、重病が関わっていた場合もあるのでとにかく診療ですね