2016年9月29日に放送のNHK「きょうの健康」にて
白血病の新しい治療法「日本で初めての幹細胞を使った再生医療等製品」について取り上げていました
毎日の健康に役立つ確かな情報を伝える「きょうの健康」
今日のテーマは白血病の新たな細胞治療でした
去年の9月、白血病の新しい治療法が承認されました。日本で初めての幹細胞を使った再生医療等製品という事です
どういう治療法なのか白血病の基本的な治療法を含め番組では詳しく解説していました
解説してくれたのは名古屋第一赤十字病院副院の長宮村耕一さん
血液内科医で特に白血病における移植が専門とのことでした
・宮村さん白血病の治療で幹細胞を使った新しい治療法が登場したんですね?
宮村医師「はい。幹細胞を増やして患者さんに投与するというものです。
再生医療等製品としてすなわち製品として発売された事に大きな意義を感じております。
ただこれは白血病に対して直接治療するものではなくて白血病の治療で行われる造血幹細胞移植の合併症に対して使うものです
移植後はドナーのリンパ球により患者の臓器が生涯を受けることがあります
そのような時に使う製品として承認されました」
・その新しい治療法については後ほど詳しく伺う事にします。その前にまず白血病がどういう病気なのかというところからお話し頂けますか?
宮村医師「はい、血液の中には白血球、赤血球、血小板が流れておりますがこれらは血液をつくる工場である骨髄その中にある造血幹細胞から分化してできております
白血病というのは造血幹細胞が がん化したもので血液が正常につくられなくなる状態を示します
すなわち血液のがんになります」
・ではその白血病どう治療していくんですか?
宮村医師「白血病の診断時には体の中に白血病の細胞が1兆個あると言われています。これを最初 抗がん剤によって約100分の1ぐらいまで減らす事を目指します
100分の1まで減らした場合にはいろんな症状が全部改善していきます
しかしここでもまだたくさんの白血病細胞が残っていますので,
今後の治療は抗がん剤あるいは造血幹細胞移植などを組み合わせてやっていく事になります」
・という事は抗がん剤と移植どちらも行うんですか?
宮村医師「基本的には抗がん剤で行います
複数の抗がん剤をセットにして繰り返し何回かやっていってそして治癒を目指します
抗がん剤だけで患者さんの半数が治癒します
しかし抗がん剤だけでは駄目だと予想される患者さんに対しては造血幹細胞移植を検討します
造血幹細胞移植は患者さんは白血病など骨髄の病気ですので、これを健康な造血幹細胞と入れ替えるという事が移植でございます
造血幹細胞というのは骨髄にある事が知られております
またある条件の下では末しょう血の中に動員される事が知られております
また赤ちゃんのへその緒のさい帯血の中にも、このような造血幹細胞がある事が知られておりますので
どれかの方法で造血幹細胞を集め患者さんに移植をしていくという形になります」
・ドナーはどのように見つけるんですか?
宮村医師「兄弟あるいは血縁の中で見つかる事もありますが、そういうケースじゃない方が多ございます。
そのために日本では骨髄バンクまたは さい帯血バンクそういったものがございます
そういった所に全国のいろんなドナーさんが登録を頂き、またさい帯血の提供を頂いて患者さんに対しての治療に貢献して頂いております」
・ドナーが見つかったら移植はどんなふうに行われるんですか?
宮村医師「移植前の患者さんの骨髄の中には白血病細胞がたくさん入っています
少し患者さんの正常の細胞もあります。
これを根こそぎ無くしていってそこで移植をしていくっていう事が望まれます
そのために抗がん剤を大量に投与したり全身に放射線を照射したりそういった事を行います
ただ最近はミニ移植という少し弱めの治療でも同様の事ができる事が分かっており広く行われております
そして造血幹細胞の移植を行います
そうするとこの細胞が2から3週間で増えてまいります
こういう幹細胞が白血球や赤血球に成長していって、血液が回復していった状態になった事を生着といい、移植の一つの最初のポイントになります」
・治療としては随分大変な治療ですがどんなリスクがあるんでしょう?
宮村医師「まず感染症という事があります。移植直後は白血球がゼロの時があります
こういった時は細菌感染で敗血症、体中に菌が広がる事がございます
またもう一つはGVHDというドナーさんの免疫力により患者さんの臓器が障害されるという非常に重要な合併症がございます」
ここで新しく出てきた言葉「GVHD」についてより詳しく番組では解説していました
GVHDとは?
造血幹細胞を移植したあと患者さんの体内で危険な免疫反応が起こる事があります
ドナー由来のリンパ球が患者さんの体を敵と見なして攻撃してしまう事があるんです
これがGVHDです
GVHDが起こると皮膚に湿疹ができたり、下痢が起きたり肝臓の機能が低下して目に黄疸が現れる事があります
重症の場合は多くの臓器が機能しなくなり命に関わる事もあります
・このGVHDという免疫反応はどのくらいの人に起きるんですか?
宮村医師「GVHDは移植患者さんの約3分の1に起こると言われています、年間1,200人でしょうか日本では」
・この免疫反応が起きた場合にはではどうしたらいいんですか?
宮村医師「移植後はドナーの免疫力により患者さんが障害を受けないようにこのドナーの免疫力を抑える免疫抑制剤が使われ、そのバランスをとっていくのが我々の一番大事な仕事であります
しかしGVHDが起こったという事はドナーの免疫力が免疫抑制剤に対して強かったと、そういう結果になります。
従いまして免疫抑制剤を追加していくという事を行います。
GVHDにおいてはステロイドがその免疫抑制剤として使われます
しかしながら約半数の人はステロイドを使ってもまだドナーの免疫力が強く、
そういう状態が続く事がありこれを「ステロイド抵抗性GVHD」と言います
ステロイド抵抗性GVHDは今でもこれが一番だという標準療法は確立されていません
そういう事で多くの患者さんが苦しんでるという事が事実にあります」
・ステロイドを使って抑えられる人はどのくらいいるんですか?
宮村医師「約半数ですね」
・という事は移植をしても3人に1人はGVHDという免疫反応が起きてしまう
そしてそれを抑えるためのステロイドも半分の人にしか効かないという事ですね
そこでGVHDの治療として登場したのが冒頭ご紹介しました幹細胞を使った新しい治療法なんですよね。
宮村医師「そうです。健康な成人の骨髄液から採取した間葉系幹細胞を培養し増やして作った製品でございます
これはもともとは海外で研究開発されたものですが、昨年の9月に日本でも承認され使えるようになりました
・この間葉系幹細胞はあまり聞き慣れない言葉なんですが一体どういうものなんですか?
宮村医師「よく分かってないっていうところもあるんですが、間葉系幹細胞は幹細胞といいますので分化していくと軟骨や骨などになると知られております
しかし分化する前の間葉系幹細胞の間は局所の炎症を抑えたり、環境を整えたりする効果があると言われております」
・その幹細胞をどんなふうに使ってるんですか?
宮村医師「これは凍結した形で病院に届きます
これを解凍して患者さんに静脈から注射を致します
そして炎症部位に届くような事が期待されております。
基礎的な実験を含めてこれらの間葉系幹細胞は炎症を抑えるようないろんな物質を出します
そういう事によってGVHDが修復されるのではないかというふうに考えられております」
・この間葉系幹細胞というのはドナーつまり提供者のリンパ球からは攻撃されないんですか?
宮村医師「はい。それが一つ大事な特徴でございます
間葉系幹細胞の表面にはドナーのリンパ球から攻撃されるようなターゲットの物質がないというふうに、あるいは出ていても少しだというふうに考えられており、そのため直ちに排除される事がないというふうに考えられております」
・この新しい治療ですが実績としてはこれまでどれくらいの効果が上がってるんですか?
宮村医師「今回日本では25人の患者さんに治験を行いました
この患者さんはGVHDの中で重症のものだけを集めた25例でございます
その評価項目としましては寛解に入る・・・寛解に入るというのはGVHDの症状が消える事なんですよ。
こういう消えてしかもそれが1か月28日間以上続くという事でそこまでを目標としておりました。
以前のいろんな報告や研究ではこのような重症の患者さんに対しては20%というふうな報告がございます
しかし今回は25人中12人48%においてこのような目標に達しておるという事については我々も驚いております
大変いい成績でありました」
・宮村さんも実際に研究に参加されていて実感としてその効果はいかがですか?
宮村医師「重症のGVHD、ステロイド抵抗性のGVHDの患者さんは下痢などをしますとですね、腹痛で夜非常に苦しんでトイレに一日10回ぐらい行くとか夜の間に行く事もあります
中にはずっとトイレに一晩中いる人もいます。そのように非常につらいものでございます
そういう事で・・・中で見ますとこの治療をして比較的早くそういう事が改善したっていう事驚いた事を覚えております」
・この細胞を使った新しい治療法ですけれども今後の課題はいかがですか?
宮村医師「副反応が起きるとかそういった事も心配されたんですがそういった事も大きなものは起きませんでした
しかし僅か25例の症例ですので、これからやはり症例を積み重ねてこの安全性については慎重に検討していく必要があると思っております
また来た細胞を適切に解かして直ちに患者さんに投与するなどそれなりの技術とそれから経験が必要になると思いますので、当面の間は約1年ぐらいですかね、限られた施設で行うという形になっております
更に高額な治療になってるという事は課題の一つとして挙げております
こういう中で我々は一例一例を大切にどういう症例にどういうふうに使っていけばいいかという事により、更にこの治療をいいものにしていけると思います
そのために日本造血細胞移植学会ではすべての患者さんのデータを収集・解析していく事も始めております
これらの結果をいろいろ解析しながら、よりよい治療法になっていってこの日本でせっかく始まった細胞治療の製品として大事に育てていきたいと思っております」