2016年2月23日に放送された「たけしの健康エンターテインメント!みんなの家庭の医学」にて
くも膜下出血を招く「脳動脈瘤」になり治療不可能と宣告された女性を救った日本に10人ほどしかいない革新的な治療法を行う名医について紹介していました
脳に大きな脳動脈瘤ができてしまい治療することは不可能、いつ破裂するかもわからない不安と戦い続けた女性を救ったのは日本に10人ほどしか出来ない革新的な技術を持った名医でした
「くも膜下出血」の恐れがある脳動脈瘤の恐ろしさと前兆。手術不可能と言われた難しい脳動脈瘤を治すことが可能となった「フローダイバーダ」を使った治療法とは?
2015年から日本でも行うようになった革新的な手術を実際に受けた女性のエピソードについて番組では紹介していました
【危険な「脳動脈瘤」になるまでの経緯】
2015年6月 Aさん(69歳)は夫と息子の3人暮らしで「主婦として楽しい毎日を過ごしていました
そんなAさんは3年前に健康診断で高血圧と診断されて以来、毎日しっかりと薬を飲み続けるのが日課でした
とはいえ日常生活に支障はないため塩分が高い食事は摂らないようにするなどはしていたものの特に気にせずに生活していました
しかしこの高血圧がAさんの脳の奥底の血管に異変をもたらすことになります
ある日の夜に夕食の片付けをしていた時のことAさんの体に異変が起きます
さっきまでは普通に見えていたのに急に視界が暗くなったのです。それは晴れていた空が突然 曇ったような暗さだったと言います
ふと目に手を当てて片目ずつ視界を確認すると左目で見るときにだけ暗いとAさんは気づきます。右目で見ると普通の明るさ、左目では暗く見えていたのです
一体何が起きたのか分からずにソファーに座って呆然としていると10分ほど経ったら元通りの明るさに戻りました
「なんだ大丈夫じゃない、疲れていただけね」と安心したAさん
痛みがあるわけでもなかったので家族にも伝えなかったそうです
視界が暗くなってから4ヶ月後、Aさんを新たな異変が襲います
雑誌を読んでいた時に視界の左下だけがぼやけたのです。辺りを見渡しても左下だけはボヤけたまま・・・
Aさんは隣にいた夫にすぐに相談、症状は収まったのですが夫の勧めもあり病院で診察してもらうことにしました
眼科医に診てもらったところ目に異常はなかった為、脳に問題がある可能性があると告げられます
そして脳神経外科に行きMRI検査を受けます。その結果Aさんは「脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)」があると診断されてしまいました
【脳動脈瘤とは?Aさんが手術することができない理由とは?】
Aさんが診断された脳動脈瘤は脳内を走る動脈が何らかの原因でコブ状に膨らんでしまう病です
詳しいことは未だにわかっていませんが喫煙、飲酒、高血圧が原因とされています
Aさんの脳には直径約1cmの大型の脳動脈瘤が出来ていました。このコブが血管の周りを走る左目の視神経を圧迫していたんですね
そのため「視野が暗くなる」「左下だけぼやける」という症状が起きていたのです
この脳動脈瘤の最大の恐怖は脳卒中の中でも最も恐ろしい病「くも膜下出血」を引き起こすことです
脳動脈瘤の内側には絶えず血液が流れ込みコブを圧迫し続けています。やがて圧力に耐え切れなくなって破裂、脳の表面を覆うくも膜の内側で大量出血する「くも膜下出血」を発症してしまうのです
溢れ続ける血液が急速に脳全体を圧迫して脳に大ダメージを与えて突然死を起こしてしまうのです
いつ破裂するかがわからない死の時限爆弾が頭の中にあると告知されたAさん
大型の脳動脈瘤が見つかったAさんの選択肢は2つに限られていました
治療法の1つが金属のコイルを使うものでした。カテーテルという管を使い血管の中からコイルを動脈瘤の内側に詰める手術です
コイルでいっぱいになったコブには血液が流れ込まずにコブの破裂を防ぐことができます
しかしAさんのようにコブが1cm以上もある大型の場合はコイルを詰めきることができずに手術をしても再発して破裂する危険性が高くなってしまうのです
例えコイルを詰めきれてもAさんの場合は脳動脈瘤が視神経を圧迫し続けてしまうためにコイルを使った治療法は向いていないと言われました
もう1つの選択肢は開頭手術でした。Aさんのように大型の脳動脈瘤の場合は一般的に開頭手術が用いられます
外科手術で頭蓋骨を開き血管の外側からコブの両サイドをクリップでとめて血流を遮断。別の血管で迂回路を作って血液を流れ込まないようにするのです
しかしAさんの場合は脳動脈瘤が脳の最も深い場所にできてしまっていたので、例え迂回路を作る手術が大掛かりになってしまうために高齢のAさんには体の負担が大きすぎてこの手術も有効とは言い切れませんでした
ではどうすればいいのか?医師がAさんに告げたのは「破裂の恐怖を抱えたまま脳動脈瘤と生きていくこと」でした。つまり治しようがないということです
10年間の間に破裂しない確率は6割という絶望な宣告でした
脳動脈瘤が破裂した場合は1分1秒を争う治療となるためAさんには「緊急連絡カード」が渡されました
破裂して意識がなくなった時に必要なカードで外出先などで倒れた時などに適切な治療が早急に受けられるように「くも膜下出血の可能性がある」ということが書かれているカードでした
外出するときには常に持っている緊急連絡カードを見るたびに「どうして私の脳にコブができたのか・・・」と落ち込む日々になります
少しでも血圧を上げないようにとAさんの生活は次第に窮屈になっていきます
不規則な生活は血圧を上げてしまうために早めに寝るようにしたり、少しの買い物でも荷物は夫に持ってもらうようになりました
やがて家事も夫に任せることが多くなり、温度差が怖くなってほとんど外出することもできなくなってしまいました
このまま破裂の不安を抱えて生きていくしかないのかと落ち込んでいた時にAさんに希望の光が・・・
定期検診の時に医師から「難しい脳動脈瘤の治療をしてくれる先生がいます。一度その先生にご相談してみてはどうですか?」と提案されたのです
【名医の「金属の筒」を使う手術で治せなかった脳動脈瘤が治せる】
Aさんが紹介されたのは兵庫医科大学病院 脳神経外科主任教授の吉村紳一先生でした
吉村先生が行う新しい脳動脈瘤の治療法は「フローダイバーダ」という直径約4mmほどの小さな金属の筒と直径1mm、1.5mm、3mmのカテーテルという管を使うものでした
金属がメッシュ状になっていて伸び縮みしてしなやかに曲がることができるのが特徴です
①太ももを通る動脈から3mmのカテーテルを挿入
管の先端から通り道のガイドとなるワイヤーを出して道筋を辿るように首の辺りまで進めます
②3mmの管の内側に1.5mmのカテーテルを挿入して脳動脈瘤の手前まで進める
③1mmの管も同様にカテーテルの内側に挿入
血管の中に器具を通すため少しでもリスクを減らそうと複数の管を使い作業する必要があるんですね
3本のカテーテルの管を通せたら「フローダイバーダ」の出番です
「フローダイバーダ」は直径1mm以下のカテーテルの中に収縮されていて、カテーテルを引き抜くと元の大きさにまで戻る仕組みになっていました
メッシュ状の筒「フローダイバーダ」が血管の壁にしっかりとフィットすれば脳動脈瘤への血流が遮られコブが自然と小さくなっていくのです
脳動脈瘤に直接触らずに行う手術のため破裂の危険性を避けることが出来るとのことでした
この治療法はヨーロッパでは2008年、日本では2015年から導入されたそうです
日本でこの手術を行えるのは10数人ほど、革新的な手術法を駆使できるの名医はまだこんなに少ないんですね
【手術の結果&まとめ】
2016年の1月27日にAさんの手術が行われました
全身麻酔をしてカテーテル⇒フローダイバーダをAさんの体内に入れる約2時間の大手術は無事に終わりました
脳動脈瘤への血流は「フローダイバーダ」によって見事に遮ることに成功しました
これで死をも覚悟したくも膜下出血の恐怖からAさんは救われることになったのです
今回の日本に10人ほどしかできない手術を行った兵庫医科大学病院 脳神経外科主任教授の吉村紳一先生は月に50件ほどの手術をこなして、医大生にも現場で手術の内容を教えて教科書にはない本物の知識を叩き込んでいました
治す術がないという絶望的な状況から脳動脈瘤を革新的な方法で治す事ができるのはこのような日々の努力の成果なんですね
私たちは病気を治すことはできませんが予防することは普段の生活からもできます
Aさんのように少しでも異変を感じたらすぐに病院へ行き診てもらうようにしましょう